MEMO
ミムラが見たり、聞いたり、感じた事を気ままに書くコラムです。
Oct.2007 1
『金・銀・犀』
家を立て替えた時、全体に大きく、新しくなって、90%の物事は向上し、今までにはなかった有用性が生まれた。
しかしそれと引き換えに失った10%、それが庭の木です。
可食部分が非常に少ないけど、美味しい実を鈴なりに実らせるプラム。満開になると周りの空気をも染め上げる藤の木。入園、入学、卒業の式典の度にこの前で記念撮影をした為、以来その香りを吸い込むと、自然と体育館の緞帳の臙脂色と緊張した気持ちを思い出す沈丁花。
なかでもその喪失感に一番胸がざわつくのが、金木犀の木。
本来ならこれからの時期、家を含めた半径10m全てをそのかろやかな香りの世界に抱き込んで咲き誇る。旧家の南東、玄関口の手前に植えられたその木は、二階の腰窓からも葉を触れる程の高さで、開花時は毎日両手一杯に柑子色の小花を摘んでもなくなる気配すらない、懐の広いいい木だった。
この世に存在する全ての香りの中で、一番、金木犀の花の香りが好きだと言い切れる。もう埋もれてしまいたい程に。この香りと同化出来るのなら自分自身の存在が消えてなくなっても構わない、とすら思っていた。
そして困った事に最近ますます慕情が募ってしまった。
金木犀という名前の由来が「木皮の質感が動物のサイに似ているから」と知ってしまったからだ。似ている。すごく似ている。そう思った瞬間から記憶の中の金木犀が、サイに成り代わった。家の横に佇むサイ。全身からいいにおいがして、ヒンヤリと乾いた身体に触ったり、登ったりしても、ひたすら穏やかに遠くを見つめるサイ。二階から角を触ったり、眠れない夜に無言の相談を受けてくれるサイ。
いいなぁ、それ……。
というわけで、おばあちゃんになったら、また大きな金木犀のある家に住もう、と決めた。銀木犀(金木犀よりも甘い香りがして、花は象牙色)も植えたい。多分金木犀はオスサイで、銀木犀はメスサイだから、それぞれが寂しくないよう、隣に植えたい。
と思ったら木犀は雌雄異株(しゆういしゅ)で雌株は日本に渡来しておらず、だから実がならないんだって。そういえば見た事ない。まあその場合は、兄弟ってことでひとつ仲良くしてもらおう。
2007.10.01 Mon.
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