MEMO

ミムラが見たり、聞いたり、感じた事を気ままに書くコラムです。

Nov.2007 6

『マダム・フローラル』

自分を中心とした半径1m以内にいる人がなめている飴や噛んでいるガムが、以前食べた事のあるものであったら、大抵言い当てられる。外で食べたおいしいソース等に使われているスパイスを嗅ぎ分けて、家で再現する事も可能。目と口と頭は良くないが、鼻には自信がある。常に鼻をくんかくんかさせているので、五感の中で失ったら一番ショックなのは実は嗅覚だと思う。
そんなわけで、強い香りは少々苦手。香水も数種類持っているけど、体に直接付けたりなんて絶対に出来ない。いつも廊下の上空に向かってシュッと一噴きして、その下でその日身につける物をひとつ、ぐるんと振り回しておしまい。

しかし世の中にはもしや一瓶全部浴びたのでは?と思うような方もいらっしゃいます。前に住んでいたマンションにマダム・フローラルと心の中で密かに呼んでいたご婦人がいらっしゃって、彼女はすごかった。私の住んでいた階より上に住んでいたようなのですが、彼女が降りてくる時にはエレベーターが到着する5秒前には付けたてのトップノートの筈なのに十分重い香りが鼻孔に届いたものです。ある日はローズ、ある日はジャスミン、ある日はバニラ…。毎日違う花の香り。ばったりマダムと鉢合わせてしまったら、鼻の奥から15分は香りが去ってくれないし、エレベーターに至っては搭乗後3時間程はマダムのテリトリー。彼女自身はいつも笑顔で感じもよく、ブランドものもしっくりくるようなナイスミドルだったのですが、あれは残り香、なんて色っぽいものではなかったなぁ。爪痕に近い。

でも今日、ちょっとマダムの気持ちがわかる気がしました。
小用に小用が重なって急に忙しくなり、朝から一日中あちこち動き回って、足が棒のようになった状態での満員電車。疲れて目がちかちかするし、周りの人からお酒や煙草、香水、それぞれが一日蓄積したにおいが充満して、頭の奥がずーんと重くなった。ああ、もう、はやく家に帰ってお風呂に入って寝たい!と思ってぎゅっと目を閉じ、首に巻いていたショールに顔を埋めたのです。その時、自分の周りにうっすら膜を感じました。あ、今私は守られている、という安堵の気持ちでふぅっと心が軽くなって、バッテリーランプが赤から黄色に。ショールからの香りがささやかなプライベートスペースを作り出してくれたようでした。
そうか、香りにはこんな効果もあるのか。

そういえばマダムの帰りは遅いし、朝は早かったっけ。いつもキレイにお化粧していたけど、一度日曜の朝にゴミ置き場で挨拶された時は誰だかわからない位顔が疲れていたし、忙しくめぐる毎日から自分を守る為に、シールドがわりに香りをまとっていたのかもしれないなぁ。

とそんな事を考えてちょっと切なくなったり、香水付けている人がみんなつらい毎日を送っているのではないかと心配になってきたり…。
いやいや、ただ単に鼻がよくなかっただけかもっ。
兎に角私はご飯の際だけは香水付け過ぎの人が許せません。飯処で私が誰かにメンチきっていたら、間違いなく不自然にきつい香りのせいだと思って下さい。付け過ぎ注意!

2007.11.06 Tue.

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