MEMO
ミムラが見たり、聞いたり、感じた事を気ままに書くコラムです。
Feb.2008 4
『動物じみる寒さ』
圧倒的な自然環境に個性を失う瞬間があります。
底の砂つぶの色形まではっきりと見通せるような奇麗な海など、美しすぎる風景を目の当たりにしたときもそうだし、台風や夕立にて駅の出入り口で雨宿りを余儀なくされたときもそうです。暑さ寒さが際立ったときも、皆が皆、人、というとてもシンプルな存在に立ち戻る。動物じみる。
当たり前の話だが冬はえらく寒い。寒いと人は首を竦めて猫背になり、眉間に皺が寄ってしまうものです。道行く人々はみんな、ピンヒールで闊歩する付け睫毛のお姉さんも、虎屋の紙袋を大事そうに抱えたふさふさ眉毛のおじいちゃんも、十把一絡げ。猫背で眉間に皺、上着の襟元を掻き合わせ、小股でつとつとと目的地へ急ぐ。個性など持ち合わせている余裕がないのです。
この間のナイトシーンのロケの時、私は完全に個性を手放していました。人間であるかどうかも際どかった様に思う。あまりの寒さと、その寒さを増幅させる強烈な風に、眉間に皺を寄せることも出来なかった。固まった顔面、見開いた瞳孔の奥で、暖かな湯で満ちたお風呂に浸かる事をイメージ。残ったエネルギーを全て与えられた仕事をこなす事に投じた。その為、記憶するエネルギーはなかったようで、びっくりするくらい何も覚えていない。
覚えているのは、立ち位置がわかりやすい様にとADさんが置いてくれた落ち葉が、欅の葉であったこと。寒さに気圧されただ寒さをやり過ごす動物然としてぶるぶるしていた私の側に、火を焚いた暖房器具を制作さんがすかさず運んで来て下さった事。私以外のスタッフは、個性を失うどころか寒風吹き荒ぶなか冗談を言ったりなんかして、てきぱき見事に仕事をこなしていたという事です。
なんだか私は、自分が血管も切れんばかりに渾身の力で挑んだのに全く歯が立たなかったジャム瓶の蓋を、父親が何の違和感もなくパカッと開けた瞬間や、何度やってもうまくいかないミシンの下糸出しを母がアイロンかけの間にささっと一発で出したのを見た瞬間を思い出した。大人ってすごい。この一言に尽きる、と思いきや私もいい加減大人だ。訂正、撮影に慣れたスタッフってすごい。タフだ。かっこいい!
それに引きかえスタッフよりも2時間も前に帰してもらったくせに、風邪をこじらせた私。へたれもいいとこだ。しかも風邪菌を保持して現場に行ったら大変迷惑だ。情けない。妙なところで二年半のブランクを感じた日でありました。
ゴホッゴホッ。とりあえずはやく風邪を治そう。
2008.02.04 Mon.
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