MEMO

ミムラが見たり、聞いたり、感じた事を気ままに書くコラムです。

Jun.200813

『浮かされる・その二』

幸運なことに、世に存在する人類の中で最も尊敬するうちの一人であるお方と、対談する機会を得た。初対面で対談。しかも前日まで高い熱があり、冷えピタを貼った頭で対談に向けての勉強をしたけれど、沸騰寸前の脳には何を入れてもすぐに蒸発してしまい、全く意味がなかった。病院で明日までにはなんとしても元気になりたいんです、と無茶なお願いをしてみるも、当日の私の体調はなんとか声が出て、咳き込むのを我慢出来る、というところまで。十分とは言えない。

緊張で眉間(第六チャクラ?)がむずむずして、身体が全部そこに吸い込まれ、小さく縮んでいく感覚に襲われる。こんなんで大丈夫なんだろうか。いや、ダメだろうけど、どこまでマシにできるかやってみよう、といったよわっちくも前向きな心持ちで対談の舞台となる、こざっぱりとした品のいい画廊に到着。画廊の方にご挨拶して、地下に案内される。

古めかしい木の階段を降りていくと、地下部分はほの暗い照明の落ち着く空間で、数人のオトナが長テーブルを囲んで座っていました。長テーブルの上には私が今まで読んできた絵本がたくさん。本でしか見た事のない憧れのグッズもたくさん。一斉に立ち上がるオトナの方々の中で、一番ゆったり、すぅっと立ち上がった人の姿に、何にも用意出来ていなかった頭の中が、更に、徹底的に、真っ白になってしまった。

コージズキンことスズキコージさんである。

スモーキーなストライプのシャツにジーンズ。手には緑色の飲み物(後で解った事だが、これはミントのシロップをサイダーで割ったものだった)を持っている。それだけで感激してしまった。本を何冊も丸暗記する程コージズキン世界に埋没した私は、そこで手にされていた飲み物がアイスコーヒーじゃなくて緑の炭酸、というのにテンションが上がってしまった。自分でも奇妙だと思うけれど、多分ファンてこういうものなんだと思う。こんななんでもないことでも、勝手に嬉しいのだ。
嗚呼、緑色の炭酸。

状況が最高なだけに、その日の私はもう悔しくてしょうがありませんでした。気の利いた言葉が出てこない。言いたい事が山ほどあるのに、話している途中で咳き込みそうになって腹筋を駆使して咳を止めている内に、言いたい事までどこかに行ってしまう。熱で阿呆になってしまったのか、あまりに嬉しくて快楽物質が分泌され過ぎたのか、イニシアティブを脳の奥が持ってしまって、中々表現できる形で出てこない。

ちょっと前にグルメ番組を見て、十代のアイドルグループらしき男の子達が何とも魅力的な、しっとりと黄金色に輝く出し巻き卵を食べて、「うまい」「おいしい」「ほんとにうまい」を繰り返しているのを見ながら『もうちょっと違う事も言ってくれないかなぁ』と不満に思った事も悔やまれた。その日の私も、スズキさんが次々に放出してくださる鮮やかな軌跡に対して、安作りの玩具のように「すごーい!」「うわぁ!」「ほんとにすごい!」を繰り返す事しかできなかったのです。そうか、圧倒的なものに遭遇すると人の言語能力は簡素化するのか、と身を以て知りました。

二ヶ月前から楽しみで楽しみで仕方なかったのです。小学生の頃の遠足がそうであったように、楽しみにしている時間の方がうんと長くてリアリティがあり、実際当日になると、それは夢のように不確かに過ぎ去ってしまう。

とはいえ、過ごした時間が素晴らしかった事に疑いの余地はありません。本当に楽しく、エキサイティングでした!

初めてお会いしたスズキさんは日向でうつらうつらしている猫に似ている、と思った。猫に似ているというのではなく、その多幸感と邪魔してはいけない感じ。それでいて、いつまでも横に座っていたくなるような居心地のよさ。頭の奥がゆるやかに融け出して、また熱が上がってきたんじゃないかと錯覚する程、幸せな時間でした。

対談のお相手が感激のあまり短絡的思考に陥って「すごい」を連発するだけの、私みたいなので良かったのかしら。せめて熱がでていなかったらなぁ!と歯噛みして悔しく思いながらも、本当はどんなに健康でも思ったようにはいかないだろうな、と感付いてもいる。だって相手はコージズキン。その前に立ったら私の頭と心は瞬時に沸点に到達して真っ赤に燃え、また「すごい」しか言えなくなるのに決まっています。そして、それでもいいからまたお話したいなぁ!こういう熱になら、いくらでも浮かされたい。

暫くは私の勉強部屋に訪ねてきた人に、もれなくスズキさんが、ライブで描いて下さった直筆の「こんにちはおてがみです」の封筒を見せびらかすことになりそうです。
ふっふっふっ。

2008.06.13 Fri.

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