MEMO
ミムラが見たり、聞いたり、感じた事を気ままに書くコラムです。
Oct.200810
『それ、何味?』
祖母の家に行った。なかなか久しぶりにお邪魔するので、とても美味しい、実家に帰る度に寄る菓子屋にて、手みやげにマカロンを選んだ。五色の五百円玉大のマカロンがひとつずつ、透明な個室を繋げたようなパッケージに入れられているもの。見目の可愛らしさと、夕飯前のお茶菓子として適した控えめなサイズが決め手。個数も叔母二人に父母に私でピッタリ。もし祖母が食べてくれそうだったら、皆からちょっとずつあげれば丁度いいはず。
一日中食べるか寝るかしていて、起きていても夢の中にいるように朗らかな九十四歳の祖母。母を指して「私、この人の娘です」と言うと、「ええ?」と苦笑いされた。まさか、そんなはずないでしょう、私の孫はもっと小さいはずよ、という感じ。かと思えば「ははは」と、そんなことわかってるわよ、やぁねぇまったく、っていう大人びた笑い方をすることもある。この度は四割程、私が誰だか理解してくれた、ような気がする。まぁ、どのような対応をして頂いても結構。事実私は貴女の孫娘ですもの。ね、おばあちゃん。
恒例となりつつある祖母への挨拶というか自己紹介を終え、仏様にお線香をあげてから、コーヒを煎れて迎えてくれた叔母二人にマカロンを渡し、早速皆で食べ始めた。黄緑を上の叔母、黄色を下の叔母、 チョコレート色を母、 ベージュを
私、ピンクを父が手に取った。色によって味が違うはずだから、みな空中を見つめ、自分のマカロンは一体何味なのかフルに想像しながら、サクッ。
中のクリームのきりりとした香りとほんのりとした苦み、それを周囲から包み込むアーモンド生地の甘さ。 ん、 これは
コーヒーだな。液体の方のコーヒーを一口啜ってから「私のはコーヒーだよ」と発表すると、母が 「私のは見た目通り
チョコレート。レーズンも入ってるみたい」。あらいいですね、一口交換しましょう、と母から受け取ったチョコレートマカロンを齧りながら周囲を見ると、叔母二人がもぐもぐしながら首を傾げている。父も自分のがっちりした手に収まった、キュートなピンクのマカロンの断面をじっと見つめている。
コーヒーもチョコも美味しいし、私が自分のマカロンの味を分析している段階でも「んー」という、満足げな唸りが聞こえていた。不味かったわけではないはずだ。どうかした?と聞くと「いや美味しいんだけど、味がね、何味だかわかんないのよ」という下の叔母の発言に、父と上の叔母も頷く。
ならばわたくしめにお任せを!と三人のマカロンをちょっとずつ失敬した。「味」は舌で解析出来ても、「何味」なのか判別するのは嗅覚だ。嗅覚はちょっとばかり優れている、と自分では思っている。ちょっと待ってて、すぐに「何味」か答えをだしてあげる!と心の中で腕まくり。
少しずつ口に入れたものを、まず舌になじませて味を解し、その後口内から鼻の方へ空気を送って香りを調べる。今まで食してきた何かの香りに適合しないか、送る空気を弱めて喉の奥に漂うようにしたり、鼻から溜息をつくように思い切り抜いたりする。記憶の中にある香りの引き出しが、イメージを伴ってポンと飛び出してきたら、分析完了。
黄色マカロン。爽やかな酸味と少量でも思い切りひろがるトロピカルな香り、これは「パッションフルーツ!」。
ピンクマカロン。リンパ線を刺激する甘酸っぱさに、時折舌に触るクリーム内のツブツブとワイルドな香り、これは「クランベリー!」。簡単だ。五秒と経たぬうちに片がついた。
「おー!」と感心する一同に見守られ、グルメ漫画の主人公ばりのしたり顔で臨んだ黄緑マカロン。「む?」……酸味はなく、まったりとした甘さにふくよかな香り。なんだろう。フルーツフレーバーはわかりやすいが、これは違う。慎重に舌の前後左右で味わう。抹茶かと思われる風貌にも惑わされたが、苦みはない。口の中のものが全てなくなるその刹那、ぷんと薫った香ばしさを、私は逃さなかった。そうかっこれは……「ピスタチオ!」。
私の嗅覚は見事答えを導き出した。自分のマカロンは 「何
味」なのかわからず霞んだ顔をしていた三人の顔も、見事に晴れ渡った。そうか、自分のマカロンは 「○味」 だったの
か、という味覚のアイデンティティがお茶の席を明るく照らす。やった。「利きマカロン」大成功!
一仕事終えた充実感に包まれながら、叔母から黄緑マカロンをもらい、嬉しそうにもぐもぐしながら頷いている祖母と目が合った。祖母にはピスタチオわかるかしら、食べたことなかったら何味だかわかんないもんなぁ、と考えてハッと気付く。しまった。答えは出したけれど、それが正解かどうかわかる人、ここにいないぞ。
皆に気付かれぬようこっそりパッケージの裏を見たけれど、そこは町の菓子屋、賞味期限しか記載していなかった。正解はなんだったのかなぁ。
ピスタチオとおぼしき味のマカロン、パッションフルーツっぽい味のマカロン、チョコレート的マカロン、コーヒー風味マカロン、クランベリーを彷彿とさせるマカロン。
まぁ、正体はわからずとも、構わないか。事実とっても美味しかったですもの。ね、おばあちゃん。
2008.10.10 Fri.
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