放送中の『そして、誰もいなくなった』。
 作品の特性上お話できないことが多いのですが、7月31日放送の3話は撮影していて楽しかったです。私演じる「はるか」の精神状態は平坦とは言い難く、その分「あれもこれも」と色々なものを持たせても(歪さを増しながらも)破綻しないキャラクター。藤原さんと対峙する重要シーンでは、アイデアを持って行って佐藤監督に採用して頂き、のびのびと、はるかという女性の持つ“業”を発散することができました。この場面で課せられた役割は果たせたかしらと、ホッとしております。ご覧になる皆さんの目には、どのように映るでしょうか。
 (余談ながら、今回諸事情から肩につかない長さの地毛を、全編付け毛でロングヘアに仕立ててあります。ここまで何方からもご指摘がなかったので、メイクさんとの作戦勝ちかなと喜んでおります。最近の技術はすごいですねぇ。)

 さて、いよいよ街のどこにも涼しい空気の欠片もなく、ぬるい、ぬくい、あつい、ばかりになって参りました。そんな中、恐々と飛び込んだ“真夏の真冬設定撮影”も、衣装さんはじめスタッフの皆さんのお気遣いから思った以上に快適に進行しております。また、別のお仕事で東京から離れた土地での撮影がありました。こちらも周囲の皆様のご協力で、よいものになっている嬉しい気配を感じております。人と人との触れ合いから感じ入る一件もありました。また時期が来たら書きたいと思います。

 引き続いている書き物の方では、7月27日発売の『ユリイカ』の短歌特集号に、私の短歌が五首載っております。実はとある件から、短歌には個人的な苦手意識があったのですが、このご依頼を逃すと『ユリイカ』に載せて頂けることはもうないかも……と考え、思い切ってお引き受けしました。
 普段、多くの人の目に触れる場に立つことのある職業柄、「誤解が発生しないよう滑らかに整えること」「歯に絹着せることも一種の礼儀」と、自身が迂闊な表現をしないよう常々注意を払っております。しかし、短歌の魅力はこの対岸にあると言えます。

 まずは短歌集を何冊か読み返し、あとは実践あるのみと思いつくまま百首ほど作って練習。古典の美しい自然描写などにも憧れつつ、現代のものは「ドキッとさせる引っ掛かり」がないとのっぺりしてしまい、言葉が裸でないと面白くないように感じました。<限られた文字数の中、エクスキューズを欲して逃げ回るコトバ達を、なるべく自然体のまま捕獲する。>妙な言い方ですが、こんな実感をしながら言葉の輪郭を凝視、自分の気持ちに混ざり物がないか撫で回して確認。そうしていつもなら“棘”を見つければそれを即排除するか、ヤスリでまあるくなるまで削るのですが、その棘を大事に取り出して材料として投入。なんとか五首を捻出致しました。

 ……と、こんな風に多数の言葉を用いないと自分の思うところを表現できない、短歌から距離のある私でしたが、中学校の林間学校以来の短歌作りはおぼつかない自分の足取り含め、夢中になれる楽しい時間でした。頭のストレッチにもよいのかリフレッシュ効果も感じましたので、皆さんも夏の暑さのこもった脳内の窓を解放する気分で、一首、気ままに作ってみてはいかがでしょうか?


 8月3日には『昔話法廷』全3作も放送されます。私は「アリとキリギリス」回の検察官役です。
 誰もが知っているあの昔話のエンディング、その後日談としての法廷での思いもかけないやりとり。前年の同シリーズで国際的な賞もとられたスタッフの方々の入念な事前準備が心強い作品でした。なるべく「考えさせられる内容」にするため、準備原稿の段階で小中高480以上のクラスの生徒達に読んでもらい、そこからの多数の意見を参照、悩ましい着地点となるようブラッシュアップを繰り返したそうです。(珍しい例では大学法学部の講義や就職活動にも活用されたとか。どんな風に使われたのか気になりますね。)
 個人的には、“昆虫のフルフェイスマスク”が本当に良く出来ていてびっくり! 複眼や前脚の構造など、ちゃんと「昆虫」でした。虫好きとしても太鼓判をおせる、その分虫を苦手な人は「はっ」とされるかもしれないビジュアル……。
 いえいえ、厳粛な裁判の上では、見た目に惑わされて真実を見逃してはいけません。是非とも内容に注視して、お楽しみ頂ければと思います。

 梅雨も明け、夏のど真ん中へ漕ぎ出した今の季節。暑さにだれることなく、豊かに過ごせますように。

2016.07.29 Fri.


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