先のmemoで書かせて頂いた、「向田邦子さんが乗り移ったかのような感覚」について。どこか書く場があれば又その時に、としておりましたが、思っていたより早くお目見得できそうです。依頼を頂戴してすぐ、走り書きメモを読めるかたちへ仕立て直し、原稿はすでにお渡し済み。また時期を見て掲載誌情報を載せますのでどうぞお楽しみに。


 さて、爽やかなあたたかい陽気は店じまい、じっとり日本列島を覆う雨雲が夏の本格的暑さへの架け橋を担おうという今です。皆さん、毎年梅雨とはうまく付き合っておられますか? 私は6月が生まれ月というせいもあるのか、雨や蒸し蒸しした空気は好き。この時期を機嫌良く過ごす術も多々持っていて、普段以上に元気なのが通例です。

 ところが先月から、寝込むほどではない微熱が続いたり、怠さが抜けずに突発的な肌トラブルもありました。ある早朝など眠くてたまらず、枕元の目覚ましを手探りで止めながらオットに「あなた代わりに私の仕事やってきてください」と寝ぼけ半分ながら真剣に頼んだほどでした。
 それを聞いたオットが、私の代わりに女優として撮影現場へ行ったらどうなるか、という一人寸劇を二分ほどやってくれて、私はそれを観て大笑い。怠さを笑いが吹き飛ばしたところで、「さあ今日もお互い頑張ろう!」と背中を支えられながらのたのたと寝室を出たわけですが……。オット曰く、寝起きの良さはピカイチ、仕事大好き人間の私がそんなこと言うなんてと数年来はじめての事態に驚き、体調を心配していたそうです。


 結果的に言うと大したことはなく、血中のコルチゾールの数値が平常値を超えてしまっていた(3?23のところを、本来下降傾向の夕方採血で29) = それを司る副腎がうまく機能していなかったから、免疫力が下がって諸々の不調が出ていたのでした。ストレスホルモンとも呼ばれるコルチゾール、ざっくり言えばただの疲れ&ストレスということです。炎症止めの薬で呆気ないほど劇的に回復、しかし飲み忘れるとまた即刻症状が出て、きちんとひと月分飲みきって漸く平常運転に戻った今日この頃。

 疲れというのは納得で、やはり三作品並走が数ヶ月続いたのでオーバーワーク気味だったのです。撮影中は万事OKでも待機中、常にエンジンを温めておかねばという緊張感、そのせいでうまくアイドリング出来ておらずガス欠という風。自身にとって未経験の容量の仕事をこなそうとする時、誰もが最初に同じ壁にあたります。
 その反面、ストレスという診断には心外で、こんなに楽しくやっているのに? と、忙しいことを楽しむ自分の内面とのギャップにハテナ。元気120%で臨みたいところ、じんわり下降してしまう気配を倦怠感や微熱から感じて焦っていた、その焦ってもどうにもならない部分とのジレンマにストレスを感じた、ということかもしれません。確かに、撮影の休憩中に暖かいお茶を啜った時や、お風呂で深呼吸をした時、または雑談しながらオットの頭をマッサージ(私の趣味)している時。そんなふとしたリラックスの瞬間に、「狭い」という言葉がふいと心に浮かんできて、なにが狭いのかと自分で不思議に思っていたのです。

 そうか、私はまだ三人の人物が何事もなく穏やかに住める物件じゃないのか。そもそも住人(演じる役柄)以外にも、私本人の居住スペースが必要なわけで、そうなると3LDK以上が必須。4LDKは厳しいなぁ。

 と、納得もしつつ少し悔しく。つくづく仕事好きな人間になったものだと、我ながら感じます。(最近同じことを繰り返し書いているので、変わり映えのない結びで申し訳ないのですが、楽しいのは楽しい、好きは好きで仕方ないのでどうぞお許しを……。)未経験ゾーンへの踏み込みでは仕方ない初期エラーと捉え、今後もチューニングを繰り返しつつ、どんな役が入居しても手狭にならない広々した精神を有する役者になりたいものです。


 来年2月公開の映画、荻上直子監督作『彼らが本気で編むときは、』の情報も公開になりました。主人公少女の母親役、“ネグレクト状態に陥った女性”です。最初は「ネグレクトする母親」と説明を受け、そのように思っていましたが色々な資料を調べ、演じている最中のざらりとした気持ちの手触りを確かめるに“陥った”という表現がしっくりくるように思います。
 だからと言って社会通念上決して許されるものでなく、台本そのままの印象では身勝手極まりない人物ですが、荻上監督の編集でどのように仕上がるのか私も楽しみです。設定上、娘役であり主人公を務めたりんかちゃんとは撮影中努めて話さないようしましたが、ラストの撮影では修羅場的シーンを共に乗り越えた同胞として、お互い脱力状態で笑い交わした時間が印象的でした。

 日本テレビ『そして、誰もいなくなった』、NHK Eテレ『昔話法廷』も放送日が近くなってまいりました。また別で、冬の衣装での撮影も入ります。熱中症など気をつけつつ、体調を万全にして取り組みます。皆様も創意工夫して、心地よい夏をお過ごしください。

2016.06.30 Thu.


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