エッセイ掲載誌のお知らせです。私が演じた向田邦子さんにスポットを当てた『トットてれび』第5回放送後、すぐに文藝春秋『オール讀物』からのご依頼を受け、その時のことを詳細に書かせていただきました。向田邦子さんの特集を組まれるそうで、いち読者としても掲載される他の方々の関連讀物を今から楽しみにしております。7月22日発売です。

 当初最長2000文字というご依頼内容でしたが、直近で経験した鮮烈で忘れ難い体験ゆえ、客観的視点に昇華する困難に直面。いつも制限字数内ぴったりでお渡ししますが、今回ばかりは字数調整を編集さまへ委ねました。お手数をおかけしてしまうと大変恐縮ながら、それでも自分で拙く弄り回すよりはプロにお任せしたい考えでした。
 ところが、内容から割くページ数を増やしてくださり、2600文字の掲載。さらにはNHKのご協力も賜り劇中写真を添えた内容となります。私にとっても大事な思い出となった件をなるべく率直に書きましたので、どうぞお楽しみになさってください。

 最近の私は執筆依頼を頂戴して直ぐ書き上げます。「お引受けします」の返答共々、「早速書き上がりましたのでお送りします」と翌日には原稿をお渡しできることも多く、締め切り数日前にお渡ししていた以前に比べ、速筆になったといえます。うまくいけば全く何も準備のない状態で受けても、アイデアを出して全体をなんとなく仮想構成、実際に書き上げるまで2000文字なら2時間でアップ。
 このあたりは遅筆エピソードに事欠かない向田さんとは、異なりますね。内容の完成度では比にならないのは当然ながら、私の場合20代の頃より“カッコつけ”が削げたせいで執筆時間が一気に短縮したように思います。また、面白そうやってみたいと思っても、ご依頼くださった方のご希望と今の自分の出せるものが、状況・実力的に噛み合わなければ辞退もします。「どんなに知恵を絞って書いても、人生の経験値以上のことは出ない」という一種の諦観、その上で最大限を出そうという風な気構えになってから、ぐっと楽になった印象です。

 逆説的に考えれば、向田さんはいつも“自分以上のもの”を提供しようと奮闘を続けたということなのかなと、そんな風にも思いました。エゴのようでいて究極のサービス、その結果は皆さんの知るところです。役者の書く気楽なエッセイと同列して語ってはいけませんが、そうでなければ没後三十五年の現在ここまで多くの方々の関心を集めませんものね。


 『オール讀物』以外にも四つほど執筆の依頼を受け、中にはとある新聞社様の連載もあります。まだ調整中ではありますが、それもこれも向田さんを演じたことからの恩恵と感じます。演じられただけで幸せでしたのに、仕事もお運びくださるなんて、なんてありがたいことでしょうか。

 一度、向田さんのお墓へお礼に参ろうと考えています。お花と切り立った角の美しい水羊羹を持って。

2016.07.20 Wed.


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